家族信託の受託者が死亡。後任者の選任と登記手続きを解説

家族信託の受託者が亡くなった場合に確認すべきこと

家族信託において、受託者が先に亡くなることは想定されていない方が多く、そのような事態に直面するとどうしてよいのか不安になってしまうことでしょう。しかしながら、必要な対応は法律上のルールに沿って整理できるため、一つずつ手順を確認しながら進めることが大切です。

この記事では、受託者が亡くなったときに信託契約がどうなるのか、そして具体的にどのような手続きを進めていけばよいのかを、なるべく分かりやすく解説します。この記事を読み終える頃には、次に何をすべきかが明確になり、少しでも心の負担が軽くなっているはずです。

家族信託の全体像については、家族信託の全体像で体系的に解説しています。

受託者の死亡で信託契約はどうなる?原則と例外

多くの方が一番心配されるのが、「受託者が亡くなったら、信託契約も終わってしまうの?」ということだと思います。結論から申し上げますと、原則として、受託者が亡くなっても信託契約は終了しません。

ただし、いくつか例外的なケースも存在します。ここでは、信託契約がどうなるのか、原則と例外に分けて見ていきましょう。

原則:信託契約は終了せず、財産も相続されない

受託者が亡くなっても、信託契約はそのまま継続するのが大原則です。なぜなら、信託された財産(信託財産)は、受託者名義で管理されるものの、受託者の固有財産とは区別され、信託目的に従って管理される財産だからです。

信託財産は、受託者個人の財産とは法律上、完全に分けて管理されています。これを信託の「倒産隔離機能」といい、信託の非常に重要な特徴の一つです。そのため、信託財産が亡くなった受託者の相続財産に含まれてしまうことはありません。受託者の相続人によって勝手に使われたり、借金の返済に充てられたりする心配はないのです。

この仕組みがあるからこそ、委託者の大切な財産は守られ、信託の目的を達成するために新しい受託者へと引き継がれていくことになります。

例外:信託契約が終了する2つのケース

原則として信託契約は続きますが、例外的に終了してしまうケースが2つあります。お手元の信託契約書と照らし合わせながら確認してみてください。

  1. 信託契約書に「受託者の死亡」が信託終了事由として定められている場合
    信託法上、信託行為で別段の定めを置ける事項については、契約書の定めが優先される場合があります。そのため、契約書の中に「受託者が死亡したときは、この信託契約を終了する」といった条項があれば、その定めに従って信託は終了します。この場合、信託財産は契約書で定められた「帰属権利者」に引き継がれることになります。
  2. 新しい受託者が決まらないまま1年間が経過した場合
    これは信託法で定められたルールです(信託法第163条3号)。受託者が亡くなった後、財産を管理する人がいない状態が長く続くのは望ましくありません。そのため、1年間新しい受託者が選任されないと、信託は自動的に終了してしまいます。意図せず信託が終わってしまう事態を避けるためにも、迅速な対応が求められます。

信託が終了した場合の手続きについては、委託者や受益者が死亡したケースも参考にしてください。信託契約は、成年後見制度とは異なる柔軟な財産管理を可能にしますが、こうしたルールを理解しておくことが大切です。

【3ステップ】後任の受託者を選任する具体的な手続き

信託契約が継続する場合、次にやるべきことは「後任の受託者」を決めることです。誰が、どのようにして新しい受託者を選ぶのかは、状況によって異なります。以下の3つのステップに沿って、ご自身のケースがどれに当てはまるか確認してみましょう。

家族信託の後任受託者を選任する3つのステップを示した図解。ステップ1は契約書確認、ステップ2は委託者と受益者の合意、ステップ3は家庭裁判所への申立て。

ステップ1:信託契約書で後任者の定めを確認する

まず、何よりも先に手元の「信託契約書」を隅々まで確認してください。契約書の中に、「第二受託者」や「後継受託者」といった言葉で、次の受託者があらかじめ指名されていることがあります。

また、特定の人物が指名されていなくても、「委託者と受益者の合意により定める」といったように、後任者の「選任方法」が定められている場合もあります。

もし契約書にこのような定めがあれば、基本的にはその内容に従って手続きを進めることになります。あらかじめ定めがあれば、その後の手続きが非常にスムーズに進みます。

より詳しい契約書の作り方については、家族信託契約書の作成方法をご覧ください。

ステップ2:定めがない場合、委託者と受益者の合意で選任する

信託契約書に後任者に関する定めが何もなかった場合はどうすればよいでしょうか。その場合は、信託法第62条1項に基づき、「委託者(財産を託した人)」と「受益者(信託の利益を受ける人)」の話し合い(合意)によって新しい受託者を選任することができます。

多くの家族信託の事例では、認知症対策として親が「委託者兼受益者」となっているケースがほとんどです。この場合、委託者兼受益者である親御さんに意思能力があれば、その方の合意により次の受託者を選任することになります。

ただし、口約束だけでは後々のトラブルの原因になりかねません。誰を新しい受託者にするか決まったら、その内容を「合意書」などの書面に残しておくことが非常に重要です。この書面は、後の不動産登記や銀行手続きでも必要になります。

ステップ3:合意できない場合は家庭裁判所に選任を申し立てる

万が一、委託者と受益者の間で話し合いがまとまらない場合や、委託者(兼受益者)がすでに認知症などで意思表示ができない状態にある場合は、家庭裁判所に新しい受託者を選んでもらうよう申し立てることができます。

この申立ては、利害関係人(例えば、受益者や亡くなった受託者の相続人など)が行うことができます。しかし、裁判所の手続きは時間も費用もかかり、ご家族にとって大きな負担となる可能性があります。あくまで最終手段と考え、できる限りステップ2の当事者間の合意で解決を目指すことが望ましいでしょう。もし委託者が意思表示できない状況であれば、成年後見制度の利用も視野に入れる必要が出てくるかもしれません。

新受託者が決定!不動産や預貯金の名義変更手続き

新しい受託者が無事に決まったら、次は信託財産の名義を新しい受託者に変更する手続きに移ります。ここは私たち司法書士の専門分野です。特に手続きが重要となる「不動産」と「預貯金」について、具体的に解説します。

【不動産】法務局で所有権移転・信託変更登記を行う

信託財産の中に土地や建物などの不動産が含まれている場合、法務局で名義変更の登記手続きが必要です。具体的には、「受託者の任務終了による所有権移転登記」と「信託登記の変更」という2つの手続きを同時に申請します。

この手続きは新しい受託者が単独で申請することができ、登録免許税はかかりません(登録免許税法第7条1項3号)。

手続きには、以下のような書類が必要となります。

  • 登記原因証明情報:亡くなった受託者の死亡の事実が分かる戸籍謄本や、新しい受託者が選任されたことを証明する信託契約書、委託者と受益者の合意書など。
  • 新受託者の住民票
  • 固定資産評価証明書
  • 委任状(司法書士に依頼する場合)

必要書類の判断や申請書の作成は専門的な知識を要するため、一般的には司法書士に依頼して進めるケースがほとんどです。

より具体的な手順については、家族信託における不動産登記手続きの流れと必要書類を解説をご覧ください。

【預貯金】金融機関で信託口座の引き継ぎを行う

預貯金の引き継ぎは、そのお金がどのように管理されていたかによって、手続きの難易度が大きく変わります。

【信託口口座で管理していた場合】
「委託者A 受託者B 信託口」といった名義の専用口座(信託口口座)で管理されていた場合は、手続きは比較的スムーズです。金融機関の指示に従い、信託契約書や新しい受託者であることを証明する書類などを提出すれば、口座の名義を新しい受託者に変更できます。

【受託者個人の普通口座で管理していた場合】
これが非常に厄介なケースです。もし亡くなった受託者が自分個人の普通預金口座で信託財産を管理していた場合、その口座は死亡と同時に凍結されてしまいます。そして、信託財産を引き出すためには、通常の預金の相続手続きと同じように、亡くなった受託者の相続人全員の協力(実印や印鑑証明書など)が必要になってしまうのです。相続人が非協力的だったり、関係が疎遠だったりすると、手続きが全く進まなくなるリスクがあります。

亡くなった受託者の相続人は何をすべき?2つの義務

この記事を読んでくださっている方の中には、亡くなった受託者のご家族、つまり「相続人」の立場の方もいらっしゃるかもしれません。受託者の地位そのものは相続されませんが、相続人には法律で定められた大切な義務が2つあります。

これは信託法第60条で定められており、円滑な信託の引き継ぎのために重要な役割を担っています。

  1. 受益者への死亡通知義務
    相続人は、受託者が亡くなった事実を知った場合、遅滞なくそのことを受益者に通知しなければなりません。もし受益者が誰か分からない場合は、委託者に通知します。この通知を怠ると、信託法上、100万円以下の過料が科される可能性もあります。
  2. 新受託者が決まるまでの財産保管・引継ぎ義務
    新しい受託者が決まり、信託財産を管理できるようになるまでの間、相続人はその財産を自分の財産と同じように注意して保管する義務があります。そして、新しい受託者が決まったら、信託に関する一切の事務をその人に引き継がなければなりません。

受託者の相続人は、信託財産を自分のものにすることはできませんが、次の管理者へ信託事務を適切に引き継ぐ重要な責任があります。もし亡くなった方に多額の借金があり、相続放棄を検討している場合でも、この引継ぎ義務は残る可能性があるため注意が必要です。

将来のために。受託者死亡に備える2つの事前対策

今回のような事態を経験し、手続きの大変さを実感された方もいらっしゃるかもしれません。これから家族信託を始める方、あるいは今の契約を見直す方は、将来同じことで悩まないために、ぜひ以下の2つの対策を検討してください。

  1. 後継受託者(第二受託者)をあらかじめ指定しておく
    信託契約書を作成する段階で、「現在の受託者が亡くなったり、認知症になったりした場合は、次にこの人が受託者になる」という形で、後継者(第二受託者、さらには第三受託者まで)を指名しておくことが最も効果的な対策です。これにより、受託者が亡くなっても、今回解説したような選任手続きを経ずに、スムーズに次の受託者へ任務を引き継ぐことができます。
  2. 信託財産を管理する「信託口口座」を開設する
    預貯金の引き継ぎで解説した通り、受託者個人の口座で財産を管理していると、いざという時に口座が凍結され、非常に面倒な手続きが必要になります。信託契約を結んだら、必ず信託専用の「信託口口座」を開設し、そこで財産を分別管理するようにしましょう。これにより、受託者個人の普通預金口座で管理していた場合に比べ、新しい受託者への引き継ぎを進めやすくなる可能性があります。

これらの対策は、家族信託の初期費用は多少かかったとしても、将来起こりうるトラブルを未然に防ぎ、ご家族の負担を大きく減らすことにつながります。

手続きが複雑で不安なときは、専門家にご相談ください

受託者が亡くなった後の手続きは、信託契約書の内容を確認し、後任者を選び、不動産や預貯金の名義を変更するなど、多岐にわたります。特に不動産の登記手続きは専門的な知識が不可欠であり、ご自身で進めるのは非常に困難です。

また、当事者間の話し合いがまとまらなかったり、亡くなった受託者の相続人が手続きに協力的でなかったりと、思わぬトラブルに発展するケースも少なくありません。

私たち司法書士法人れみらい事務所は、このような複雑な状況において、法律に基づいた的確なアドバイスはもちろん、煩雑な書類の作成や登記手続きの代行、関係者間の調整まで、トータルでサポートいたします。

「何から手をつけていいか分からない」「自分たちのケースではどうなるのか知りたい」そんな漠然とした不安を抱えたままで構いません。一人で悩まず、まずは専門家の話を聞いてみませんか。当事務所では、初回のご相談は無料です。どうぞお気軽にお問い合わせください。

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