清算型遺贈とは?不動産を「お金」に変えて円満に遺す方法
「自宅不動産を、子どもたちに公平に遺したいけれど、どう分ければいいのだろう…」
「お世話になった団体に寄付をしたい。でも、不動産のままではかえって迷惑になってしまうかもしれない…」
ご自身の財産の行く末を考えたとき、このようなお悩みを抱える方は少なくありません。特に、不動産のように物理的に分けられない財産は、ご家族間の思わぬトラブルの種になってしまうこともあります。
そんなお悩みを解決する一つの有力な選択肢が、「清算型遺贈(せいさんがたいぞう)」という方法です。
これは一言でいうと、遺言書によって不動産などの財産を売却してお金に換え、その現金を指定した相手に渡してもらう仕組みのこと。
遺言書で信頼できる専門家などに財産の売却と分配を託すことで、あなたの「想い」をスムーズに実現しやすくなります。
不動産を「モノ」としてではなく、誰もが公平に分けられる「お金」という価値で遺す。清算型遺贈は、遺される大切な人たちの未来を考えた、現代的で思いやりのある方法と言えるでしょう。
通常の相続や現物での遺贈と何が違う?メリット・デメリットを比較
清算型遺贈がご自身にとって最適な方法かを見極めるために、他の方法と比べてみましょう。
特に、不動産そのものを渡す「特定遺贈」や、相続人同士の話し合いで分ける「遺産分割協議」と比較すると、その特徴がよくわかります。
| 清算型遺贈 | 特定遺贈(現物) | 遺産分割協議 | |
|---|---|---|---|
| メリット |
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| デメリット |
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清算型遺贈の最大のメリットは、やはり「相続人間のトラブルを未然に防げる」という点に尽きます。
不動産を現金化することで、誰の目にも明らかな形で公平に分配できるため、「誰が不動産をもらうのか」「代わりのお金をどうやって支払うのか」といった、揉め事になりがちな問題を根本から解消できるのです。
その一方で、不動産の売却は市況に左右されるため、想定していた価格で売れない可能性がある点はデメリットです。また、後ほど詳しく解説しますが、税金の取り扱いが複雑になるため、専門家のサポートが非常に重要になります。
【ケース別】司法書士が解説!清算型遺贈が特に有効な3つの場面
私たち司法書士は、日々多くの相続に関するご相談をお受けしています。その経験から、清算型遺贈が特に力を発揮する典型的なケースを3つご紹介します。ご自身の状況と照らし合わせながら、読み進めてみてください。
ケース1:複数の相続人で不動産を公平に分けたい
「実家を長男と次男で公平に分けたい。でも、どちらも実家に住む予定はないし、一方がもう一方に代償金を払えるほどの経済的余裕もない…」
これは、相続において非常によくあるお悩みです。不動産を兄弟の共有名義にするという方法もありますが、これは将来のトラブルの火種になりかねません。
将来、その不動産を売却したくなったときには共有者全員の同意が必要になり、もし誰かが反対したり、連絡がつかなくなったりすると、誰も身動きが取れなくなってしまいます。
清算型遺贈の遺言書を作成しておけば、遺言執行者が不動産を売却し、得られた現金を兄弟で均等に分けることができます。これにより、共有名義のリスクを回避し、誰にも不満が残らない円満な相続を実現しやすくなるのです。
ケース2:お世話になった人や団体へ負担なく寄付したい
「長年、親身になってくれた方に感謝の気持ちを伝えたい」「活動を応援している団体に、私の財産を役立ててほしい」
このような温かいお気持ちを形にする際にも、清算型遺贈は非常に有効です。もし不動産をそのまま寄付(遺贈)してしまうと、受け取った側はかえって大きな負担を強いられる可能性があります。
- 固定資産税や管理費の支払い義務
- 不動産を売却するための手間や費用
- そもそも不動産での寄付を受け付けていない団体も多い
清算型遺贈であれば、こうした負担を一切かけることなく、感謝の気持ちを「現金」という最も使いやすく、喜ばれる形で届けることができます。
以前、当事務所にご相談に来られたAさんは、ご夫婦二人暮らしでお子さんがいらっしゃいませんでした。ご自身の相続財産が最終的に国に帰属することに疑問を感じ、「社会のために役立てたい」と、ある福祉団体への寄付を希望されていました。
しかし、Aさんの主な財産はご自宅の不動産。団体側に確認したところ、やはり不動産そのものでの寄付は管理が難しく、現金での寄付をお願いしたいとのことでした。
そこで私たちは、清算型遺贈を利用した公正証書遺言の作成をサポートさせていただきました。遺言書には、Aさんのご逝去後、当事務所の司法書士が遺言執行者として不動産を売却し、経費を差し引いた全額をその福祉団体へ寄付する旨を明記しました。
これにより、Aさんは「自分の想いが確実に実現できる」と大変安心され、団体側にも負担をかけずに寄付ができる道筋が立ちました。このように、清算型遺贈は、相続人がいない方の社会貢献への想いを実現するための、非常に有効な手段となるのです。
ケース3:借金の返済や諸費用を遺産から支払ってほしい
「自宅不動産というプラスの財産はあるけれど、銀行からの借入金もまだ残っている…」
このような場合、相続人は不動産と一緒に借金も引き継ぐことになります。もし相続人が借金を返済できなければ、せっかく相続した不動産をすぐに手放さなければならないかもしれません。
清算型遺贈を活用すれば、遺言書で「不動産を売却したお金から、まず借入金を返済し、葬儀費用なども支払い、残った現金を相続人に渡す」と明確に指定できます。
これにより、相続人は自分のお金を持ち出すことなく、遺産の中からすべての清算を終えることができるのです。これは、遺されるご家族にとって、精神的にも経済的にも大きな安心に繋がります。
想いを実現するまでの3ステップ|手続きの流れと遺言書の書き方
では、実際に清算型遺贈を行うには、どのような準備と手続きが必要なのでしょうか。全体の流れを3つのステップに分けて見ていきましょう。
STEP1:手続き成功のカギは「遺言執行者」を決めること
清算型遺贈を成功させるために、最も重要なのが「遺言執行者」の存在です。
遺言執行者とは、その名の通り、遺言の内容を実現するために必要なあらゆる手続きを行う権限を持つ人のこと。清算型遺贈の場合、その役割は非常に多岐にわたります。
- 遺産の調査と財産目録の作成
- 不動産の相続登記
- 不動産会社の選定と売却活動の依頼
- 売買契約の締結、決済の立ち会い
- 買主への所有権移転登記
- 税金や諸費用の支払い
- 残った現金の分配
これらの手続きは非常に複雑で専門知識が求められるため、相続人の中から選ぶと大きな負担になったり、相続人間で意見が対立したりする火種になりかねません。
そのため、中立的な立場で、法律や登記の専門知識を持つ司法書士などを遺言執行者に指定しておくことが、手続きを円滑に進めるための成功のカギとなります。より詳しい役割については、「遺言執行者の役割・費用・選び方」をご覧ください。

STEP2:想いを正確に伝える遺言書の書き方【文例付き】
遺言執行者を決めたら、次は遺言書を作成します。清算型遺贈の意思を明確に伝えるためには、いくつか重要なポイントがあります。以下に基本的な文例をご紹介します。
【清算型遺贈の遺言書 文例】
第〇条 遺言者は、遺言者の有する下記不動産を換価し、その換価代金から、公租公課、譲渡所得税、仲介手数料その他一切の諸費用を控除した残額の全部を、遺言者の長男〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に遺贈する。
【不動産の表示】
所在 〇市〇町〇丁目
地番 〇番〇
地目 宅地
地積 〇〇平方メートル第〇条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、下記者を指定する。
住所 兵庫県尼崎市南塚口町〇丁目〇番〇号
氏名 司法書士法人れみらい事務所第〇条 遺言執行者は、第〇条記載の不動産を売却する権限を有するものとし、その売却にあたっては、売却の時期、方法、買主、価額等を遺言執行者の裁量で決定できるものとする。
これはあくまで一例です。ご自身の状況に合わせて内容は変わります。法的に有効で、後々トラブルにならない遺言書を作成するためには、自筆での作成は避け、専門家が関与する「公正証書遺言」を作成することを強くお勧めします。
具体的な作成手順については、「公正証書遺言の作成手順と費用」で詳しく解説しています。

STEP3:相続発生後から分配までの流れ
あなたが亡くなった後、遺言執行者は速やかに手続きを開始します。大まかな流れは以下の通りです。
- 遺言執行者による相続登記
まず、不動産の名義をあなたから相続人へ変更する「相続登記」を行います。 - 不動産会社と連携した売却活動
遺言執行者は、信頼できる不動産会社と連携し、不動産の売却活動を開始します。 - 買主への所有権移転登記
買主が見つかったら、売買契約を結び、代金の決済と同時に不動産の名義を買主へ移す「所有権移転登記」を行います。 - 税金・費用の清算
売却代金の中から、仲介手数料や登記費用、後述する譲渡所得税などを支払います。 - 受遺者への現金分配
すべての費用を精算した後に残った現金を、遺言書で指定された方(受遺者)へ送金し、すべての手続きが完了となります。
このように、遺言執行者が一連の手続きを責任をもって進めることで、ご家族や受遺者に負担をかけることなく、あなたの想いを形にすることができるのです。

【最重要】知らないと損する費用と税金の注意点
清算型遺贈を検討する上で、避けては通れないのが費用と税金の問題です。特に税金の知識は、トラブルを未然に防ぐために不可欠です。ここでは、専門家の視点から特に注意していただきたい3つのポイントを徹底的に解説します。
注意点1:不動産売却時の「譲渡所得税」は誰が払うのか?
清算型遺贈における、最大の落とし穴とも言えるのが「譲渡所得税」の問題です。
譲渡所得税とは、不動産を売却して得た利益(譲渡所得)に対してかかる税金のことです。清算型遺贈(換価)で遺言執行者が不動産を換価処分する場合でも、その譲渡所得は原則として法定相続分に応じて各相続人が申告する必要があります。
しかし、最終的に売却代金を受け取るのは、遺言で指定された受遺者(お金をもらう人)です。すると、「お金はもらっていないのに、税金だけを負担させられる」という、相続人にとって非常に不公平な事態が起こりかねません。これが深刻なトラブルの原因になるのです。
このような事態を避けるため、遺言書で以下のような対策を講じておくことが極めて重要です。
- 遺言書で「売却代金から譲渡所得税等の費用を差し引いた残額を遺贈する」と明確に指定する。
- 信頼できる専門家を遺言執行者に指定し、売却代金の管理と納税手続きを任せる。
この点を曖昧にしてしまうと、せっかくの円満相続への想いが台無しになりかねません。ご自身のケースでどうなるか、必ず専門家にご相談ください。なお、相続不動産の売却には様々な税金の特例もありますので、併せて確認しておくとよいでしょう。
参照:国税庁 No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)
注意点2:法人への寄付で発生する「みなし譲渡所得税」とは?
NPO法人など、法人格を持つ団体への寄付を考えている場合に注意したいのが「みなし譲渡所得税」です。
これは、個人が法人に対して時価の2分の1未満の低い価格で財産を譲渡したり、無償で寄付(遺贈)したりした場合に、「時価で譲渡があったもの」とみなして、譲渡所得税が課税されるという特殊なルールです(所得税法第59条)。
つまり、あなたが善意で法人に不動産を遺贈したとしても、所得税法第59条の規定により「時価で譲渡があったもの」とみなされ、譲渡所得課税が問題となる可能性があります。
この税金は、個人への遺贈の場合には原則としてかからないため、特に注意が必要です。
この問題も、遺言書で「売却代金から税金を支払う」旨を明記しておくことで対策が可能ですが、非常に専門的な知識が求められます。法人への寄付をお考えの方は、このリスクを必ず念頭に置き、専門家にご相談ください。
参照:国税庁 法人に対する不動産の遺贈に係るみなし譲渡所得課税に関する一考察
注意点3:遺言執行報酬や仲介手数料などの諸費用
譲渡所得税以外にも、清算型遺贈を実現するためには様々な費用がかかります。
- 遺言執行者への報酬:手続きを専門家に依頼した場合の費用。
- 不動産会社への仲介手数料:不動産売却時の成功報酬。
- 登記費用:相続登記や所有権移転登記の登録免許税、司法書士手数料。
- その他:印紙代、建物の解体費、土地の測量費、遺品整理費用など。
これらの費用も、遺言書で「不動産の売却代金から支払う」と明確に指示しておけば、売却代金の範囲内で遺産から清算できる場合があります。
相続人や受遺者の自己資金負担を抑えられる可能性がある点も、清算型遺贈のメリットと言えます。当事務所の報酬については、料金一覧ページをご覧ください。
清算型遺贈に関するよくある質問(Q&A)
最後に、清算型遺贈についてお客様からよくいただくご質問に、専門家の視点からお答えします。
これは清算型遺贈の最大のリスクと言えます。不動産市況によっては、売却に時間がかかったり、希望価格を下回ったりする可能性は否定できません。
このようなリスクに備えるため、遺言書に次のような対策を盛り込んでおくことをお勧めします。
- 「〇〇万円を下回る価格では売却しない」といった最低売却価格を定めておく。
- 「遺言者の死亡後〇年以内に売却できない場合は、不動産のまま長男〇〇に相続させる」といった、万が一売れなかった場合の次の手を定めておく(これを「予備的遺言」といいます)。
事前に専門家と相談し、起こりうる事態を想定して対策を盛り込んでおくことで、リスクを最小限に抑えることができます。このテーマの全体像については、「公正証書遺言の作成手順と費用」で体系的に解説しています。
ご安心ください。遺言書で適法に遺言執行者が指定されていれば、その遺言執行者は、相続人全員の同意がなくても、単独で不動産の売却手続きを進める権限を持っています。
これは、遺言執行者を指定する非常に大きなメリットです。
通常の遺産分割では、相続人のうち一人でも反対すると話が進まなくなってしまいますが、遺言執行者がいれば、あなたの最後の意思を滞りなく実現することが可能です。より詳しい権限については、「遺言執行者の役割・費用・選び方」をご覧ください。
まとめ:あなたの想いを円滑に実現する、清算型遺贈という選択
今回は、不動産などの財産を現金化して遺す「清算型遺贈」について、そのメリットから手続き、そして最も重要な費用と税金の注意点まで詳しく解説しました。
清算型遺贈は、
- 財産を公平に分配し、相続人間のトラブルを防ぎたい
- お世話になった人や団体に、負担をかけずに感謝を伝えたい
- 借金の返済なども含め、すべての清算を遺産の中で完結させたい
といった、あなたの温かい想いを実現するための、非常に有効な手段です。
しかし、その実現には税務や登記などの専門知識が不可欠であり、特に遺言書の作成方法を一つ間違えるだけで、かえってトラブルを招きかねません。
あなたの想いを確実に、そして円満に実現するためには、信頼できる専門家のサポートが何よりも重要です。
司法書士法人れみらい事務所では、相続・遺言に関するご相談に力を入れています。「私の場合はどうなんだろう?」「まずは話だけでも聞いてみたい」という段階でも全く問題ありません。
あなたのお気持ちに寄り添い、最適な方法を一緒に考えさせていただきます。