専門職後見人はどんな場合に選ばれる?家庭裁判所の判断基準
ご親族の判断能力に不安を感じ、成年後見制度を考え始めたとき、「後見人は家族がなるべきか、それとも専門家に任せるべきか」という問いは、誰もが直面する大きな悩みだと思います。
ご家族が候補者として名乗り出たとしても、必ずしもその通りに選任されるとは限りません。家庭裁判所は、あくまで「ご本人にとって最も利益となるのは誰か」という視点で、中立的な判断を下すからです。
では、具体的にどのような場合に、司法書士や弁護士といった「専門職後見人」が選ばれるのでしょうか。ここでは、家庭裁判所が専門職の選任を検討する代表的なケースについて、その理由とともに詳しく解説していきます。
候補者がいても専門職が選任される代表的な8つのケース
成年後見の申立てでは、ご家族を後見人の候補者として希望することができます。しかし、家庭裁判所がご本人の状況や親族関係、財産の内容などを総合的に考慮した結果、専門職が適任と判断することがあります。その代表的なケースを見ていきましょう。
1.親族間に対立や不信感がある
過去に遺産相続で揉めた経験があったり、特定の親族による財産の使い込みが疑われたりするなど、ご親族間の関係が良好でない場合です。
特定の親族が後見人になると、他の親族から不満が出てさらなる対立を生む可能性があるため、公平な立場で財産を管理できる第三者が必要と判断されます。
2.財産の管理が複雑で難しい
ご本人が多数の預貯金口座、株式や投資信託などの金融資産、複数の賃貸不動産などをお持ちの場合です。財産の全体像を正確に把握し、適切に管理・運用していくには専門的な知識が不可欠です。収支の把握が難しい、使途不明金の疑いがあるといったケースも同様です。
3.不動産の売却など専門的な手続きが見込まれる
ご本人が介護施設に入所するための資金として、ご自宅の売却を検討しているケースなどが典型例です。居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要であり、売買契約から登記手続きまで、法律的な専門知識が求められるため、専門職が選ばれやすくなります。
4.ご本人と親族の利益が相反する(利益相反)
例えば、ご本人が所有する土地を、後見人候補者であるお子さんが購入したい場合など、ご本人の利益と後見人の利益がぶつかってしまう状況です。このような場合、ご本人が不利益を被らないよう、中立的な立場の専門職が選任されたり、一時的に特別代理人が選ばれたりします。
5.候補者自身の問題(健康・居住地など)
後見人候補者の方がご高齢であったり、持病を抱えていたり、あるいは遠方にお住まいであったりする場合です。後見人の仕事は長期間にわたるため、安定して職務を続けられるかという視点も重要になります。
6.虐待や経済的搾取のおそれがある
残念ながら、ご本人に対する身体的・心理的な虐待や、年金などを不当に使い込むといった経済的搾取が疑われるケースもあります。このような場合は、ご本人を保護するために、親族から引き離し、客観的な立場で財産を管理できる専門職の介入が不可欠です。
7.多くの専門機関との連携が必要
ご本人が医療、介護、福祉など複数のサービスを利用しており、病院、ケアマネージャー、施設、行政など、多くの関係者との調整が必要な場合です。専門職が「ハブ」となり、情報を集約・整理することで、ご本人にとって最善のサポート体制を築くことができます。
8.多額の負債がある、訴訟を抱えているなど法的対応が必要
ご本人に借金があり債権者との交渉が必要な場合や、誰かと法的なトラブルを抱えている場合などです。このようなケースでは、法律の専門家である弁護士や司法書士が後見人として対応することが望ましいと判断されます。
これらのケースはあくまで代表例であり、最終的には家庭裁判所がご本人の利益を第一に考えて総合的に判断します。
そもそも後見人になれない「欠格事由」とは?
専門職が選ばれる以前の問題として、法律上、特定の人は成年後見人になることができません。これを「欠格事由」といい、民法第847条で定められています。

- 未成年者:十分な判断能力や法律行為の能力がないため。
- 家庭裁判所から後見人などを解任されたことがある人:過去に後見人として不適切な行為があった可能性があり、再び任せるのはリスクが高いと判断されるため。
- 破産者:自身の財産管理が困難な状況にあり、他人の財産を適切に管理する能力に疑問符が付くため。
- ご本人に対して訴訟をしたことがある人、その配偶者や親子:ご本人との間に利害の対立があるため、公平な後見業務が期待できないから。
- 行方の知れない人:そもそも後見人としての職務を遂行できないため。
これらの欠格事由に一つでも当てはまる方は、後見人の候補者になることはできません。成年後見制度の全体像については、で体系的に解説しています。
司法書士が後見人に選ばれる理由|弁護士・社会福祉士との違い
専門職後見人には、司法書士のほかに弁護士や社会福祉士などがいます。それぞれに専門分野があり、どの専門家が最適かはケースバイケースです。その中でも、司法書士は特に「財産管理」や「不動産」が関わる場面で強みを発揮します。

ここでは、なぜ司法書士が専門職後見人として多く選ばれているのか、その理由と具体的なメリットを掘り下げていきましょう。ご自身のケースではどの専門家が合っているかを考える参考にしてみてください。
財産管理と不動産手続きのプロフェッショナル
司法書士の大きな強みは、なんといっても財産管理と法的手続きの専門家である点です。後見人の主な仕事は、ご本人の預貯金や不動産といった財産を適切に管理し、守ること。司法書士は、そのための具体的な実務に精通しています。
例えば、ご本人がどの金融機関に口座を持っているか、どんな保険に入っているかを調査する「財産の名寄せ」から、日々の収入と支出を記録する「収支台帳の作成」まで、財産状況を正確に可視化し、透明性の高い管理を実現します。
特に、成年後見で頻繁に発生する「居住用不動産の売却」では、司法書士の専門性が最大限に活かされます。家庭裁判所への売却許可申立てに関する手続きのサポートや、売却後の所有権移転登記など、司法書士の専門分野に関わる手続きを中心に対応できます。
これにより、不動産売却のために別途ほかの専門家を探す手間や費用を省くことができるのは、ご家族にとって大きなメリットと言えるでしょう。より具体的な手順については、相続不動産の売却手順をご覧ください。
第三者機関「リーガルサポート」による二重の監督体制
専門家にお願いするうえで、「万が一、財産を使い込まれたりしないだろうか…」という不安は、誰もが感じることだと思います。その点、司法書士には安心して任せられる仕組みがあります。
司法書士の中には、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートに所属している人もいます。この団体は、司法書士による後見業務の質を維持・向上させるために設立された専門職能団体です。
リーガルサポートの会員である司法書士は、家庭裁判所への定期報告とは別に、リーガルサポートに対しても所定の業務報告を行う仕組みがあります。
リーガルサポートの会員である司法書士の場合、家庭裁判所への定期報告に加えて、リーガルサポートに対する所定の業務報告を行う仕組みがあります。こうした枠組みがあることは、依頼先を検討する際の判断材料の一つになります。
中立な立場で多職種連携の「ハブ」となる
後見人の仕事は、財産管理だけではありません。ご本人が安心して生活できるよう、医療や介護、福祉といった様々な分野の専門家と連携し、生活環境を整える「身上監護」も重要な役割です。
司法書士は、ご家族間の利害が対立するような場面でも、中立な第三者として客観的な視点から情報を整理します。
そして、医師やケアマネージャー、施設職員、行政担当者など、各分野の専門家と密に連携を取り、ご本人にとって何が最善かを考え、意思決定をサポートする「情報ハブ」としての役割を果たします。
単なる事務の代行者ではなく、ご本人の生活全体をコーディネートする頼れるパートナーとして、多方面からサポートできるのが司法書士の強みです。任意後見制度を検討する際にも、こうした司法書士の役割は大きなメリットとなるでしょう。
専門職後見人の報酬基準|相場と家庭裁判所の決定方法
専門職後見人への依頼を検討する際、最も気になるのが費用、つまり「報酬」がいくらかかるのか、という点ではないでしょうか。
「高額な費用を請求されるのでは…」という不安を解消するため、ここでは報酬の仕組みと相場、そしてその金額がどのように決まるのかを詳しく解説します。
大前提として、後見人の報酬は後見人自身が勝手に決めるものではありません。家庭裁判所が後見人の仕事内容やご本人の財産状況などを考慮して、審判によって正式に金額を決定します。
この仕組みを理解することが、費用の不安を解消する第一歩です。より詳しい費用全般については、成年後見制度の費用でも解説しています。
報酬は「基本報酬」と「付加報酬」の2階建て
専門職後見人の報酬は、大きく分けて2つの要素で構成されています。これを理解すると、報酬体系がとても分かりやすくなります。

① 基本報酬
日常的な財産管理(預貯金の入出金管理、公共料金の支払いなど)や身上監護(定期的な訪問、施設との連絡調整など)といった、通常の業務に対する報酬です。
後述するように、ご本人の管理財産額に応じて目安が示されています。
② 付加報酬
不動産の売却、保険金の請求、遺産分割協議への参加、訴訟対応など、通常業務の範囲を超える、特に困難または複雑な事務を行った場合に、基本報酬に上乗せされる報酬です。
特別な労力に対して支払われる、いわばボーナスのようなものとイメージすると分かりやすいかもしれません。
このように、報酬は「基本」と「特別な業務」の2階建て構造になっているのです。
【報酬の目安】管理財産額に応じた基本報酬の相場
では、基本報酬は具体的にどのくらいなのでしょうか。家庭裁判所が公表している目安を参考にすると、おおよその相場観を掴むことができます。
一般的に、月額2万円〜6万円程度が目安とされていますが、これはご本人の管理財産額(預貯金や有価証券など流動資産の合計額)によって変動します。
| 管理財産額 | 基本報酬(月額)の目安 |
|---|---|
| 1,000万円未満 | 2万円 |
| 1,000万円以上 5,000万円未満 | 3万円~4万円 |
| 5,000万円以上 | 5万円~6万円 |
※上記はあくまで目安であり、個別の事情によって増減する可能性があります。
例えば、管理財産が1,500万円の方であれば、月額3〜4万円程度が基本報酬の目安となります。ただし、これはあくまで基準であり、ご本人の収支状況や後見業務の複雑さなどを考慮して、最終的な金額は家庭裁判所が決定します。
参照:成年後見人等の報酬額のめやす(東京家庭裁判所・東京家庭裁判所立川支部)
報酬は誰がいつ払う?「報酬付与の申立て」の流れ
「報酬は、家族が毎月支払わなければならないの?」というご質問をよく受けますが、それは違います。報酬の支払いには、決まった手続きがあります。
後見人の報酬は、原則としてご本人の財産の中から支払われます。
具体的な流れは以下の通りです。
- 後見人が、一定期間(通常は1年)の業務内容を家庭裁判所に報告します。
- その報告と同時に、「これだけの仕事をしたので、報酬をください」という「報酬付与の申立て」を家庭裁判所に行います。
- 家庭裁判所が、報告書や申立書の内容を審査し、「今回の報酬は〇〇円とします」という審判を下します。
- 審判で決定された金額を、後見人がご本人の預金口座から引き出し、報酬として受け取ります。
このように、報酬は後見人が勝手に引き出すのではなく、必ず家庭裁判所の許可を得てから、ご本人の財産から支払われるという透明性の高いプロセスになっています。この一連の手続きは、家庭裁判所への報告とセットで行われるのが一般的です。
専門職後見人を選任すべきか?判断のためのチェックリスト

ここまで、専門職後見人が選ばれるケースや司法書士の役割、報酬の仕組みについて解説してきました。
最後に、これまでの情報を踏まえ、ご自身の状況が専門職への依頼を検討すべきケースに当てはまるかどうかを判断するためのチェックリストをご用意しました。
一つでも当てはまる項目があれば、専門職後見人の選任を前向きに検討する価値があるかもしれません。
- 親族間で意見がまとまらず、第三者に入ってもらった方が円滑に進みそうか?
- 預貯金、不動産、有価証券など、財産の種類が多く、全体像の把握が難しいか?
- 近い将来、ご本人の施設入所費用などのために不動産の売却を考えているか?
- ご本人と親族との間にお金の貸し借りや、相続の問題など、利害が対立する可能性があるか?
- 医療、介護、行政など、多くの関係機関との連絡や調整が必要な状況か?
- 財産管理の透明性を確保し、他の親族から疑念を持たれないようにしたいか?
もちろん、このチェックリストはあくまで一つの目安です。専門職に依頼することには費用がかかるというデメリットもあります。ご家族の状況やご本人の財産、そして何よりも「ご本人にとって何が一番幸せか」を総合的に考えて判断することが大切です。
まとめ|最適な選択はご家族の状況によって異なります
今回は、専門職後見人がどのような場合に選ばれ、司法書士が後見人としてどのような役割を果たすのか、そして気になる報酬の仕組みについて詳しく解説しました。
- 選任ケース:親族間の対立、財産管理の複雑さ、不動産売却の必要性などがある場合、専門職が選ばれやすい。
- 司法書士の役割:財産管理と不動産手続きのプロであり、リーガルサポートによる二重監督で信頼性が高い。
- 報酬の仕組み:報酬は家庭裁判所が決定し、本人の財産から支払われる。月額2〜6万円が目安。
成年後見制度において、親族が後見人になるのが良いか、専門職に依頼するのが良いか、その答えは一つではありません。ご家族の関係性、財産の状況、そして後見業務にどれだけの時間を割けるかなど、ご家庭の事情によって最適な選択は異なります。
もし、「うちの場合はどうなんだろう?」と悩まれたり、具体的な手続きについて詳しく知りたいと思われたりした際には、一人で抱え込まずに専門家にご相談ください。当事務所では、ご家族それぞれの状況を丁寧にお伺いし、最適な選択肢を一緒に考えさせていただきます。