成年後見制度のよくあるデメリット|利用前に知っておくべきこと

成年後見制度の4つの代表的なデメリット

「親の判断能力が落ちてきた。財産管理はどうしよう…」
そう考えたとき、多くの方が最初に思い浮かべるのが「成年後見制度」ではないでしょうか。

大切な家族の財産を守るための公的な制度であり、状況によっては心強い選択肢となり得ます。

しかし、その一方で、制度の利用をためらわせるような「デメリット」があるのも事実です。

「一度始めたらやめられないって本当?」「実家を売って介護費用に充てたいのに、自由に売れなくなるって聞いた…」

こうした不安を抱えたまま手続きを進めてしまうと、後で「こんなはずではなかった」と後悔につながりかねません。この記事では、司法書士という専門家の立場から、成年後見制度のデメリットを包み隠さず、正直にお伝えします。

制度の「負の側面」を正しく理解することは、ご家族にとって最適な選択をするための第一歩です。まずは、代表的な4つのデメリットの全体像をつかんでいきましょう。

【財産面】資産の活用が厳しく制限される

成年後見制度の最も重要な目的は「ご本人の財産を現状のまま守ること(現状維持)」です。そのため、後見人が就くと、財産を積極的に増やしたり、柔軟に活用したりすることは原則として難しくなります。

具体的には、投資(株式、投資信託など)や、相続税対策を目的とした生前贈与、アパート経営といった積極的な資産活用は、家庭裁判所から認められない可能性が高いでしょう。

あくまでも、本人の生活を守るための支出が優先されるため、家族が望むような財産管理とは少しイメージが異なるかもしれません。

【費用面】専門家への報酬が長期的に発生する

成年後見制度を利用するには、申立て時の初期費用だけでなく、制度が続く限り継続的な費用が発生します。特に、弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選ばれた場合、その報酬を本人の財産から支払い続ける必要があります。

報酬額は本人の財産額によって変動しますが、月額2万円から6万円程度が相場です。

この支払いが、ご本人が亡くなるまで、場合によっては10年、20年と続くことを考えると、総額では数百万円に及ぶ大きな負担となる可能性があります。

詳しい費用については、専門職後見人が選ばれるケースやその報酬基準もあわせてご確認ください。

【生活・心理面】家族の関与が減り、精神的な負担が増える

これまで家族が管理してきた通帳や印鑑を、後見人である専門家に預けることになります。これにより、家族は「お金の管理を第三者に握られてしまった」という疎外感や、何かお金が必要になるたびに後見人にお願いしなければならない「自由度の低下」を感じることが少なくありません。

また、もし親族が後見人になったとしても、すべてのお金の出入りを記録し、領収書を保管し、年に一度は家庭裁判所に財産状況を報告する義務があります。

この事務的な負担は想像以上に重く、大きな精神的ストレスにつながるケースも見られます。

【手続き面】一度始めると、原則やめられない

成年後見制度の最大のデメリットとも言えるのが、この「不可逆性」です。制度は、ご本人の判断能力が回復しない限り、生涯にわたって続きます。

「後見人との相性が悪い」「報酬が高いからやめたい」といった家族の都合だけで制度を中止するのは簡単ではありません。

一方で、後見人の辞任には家庭裁判所の許可が必要であり、また不正行為などがある場合には解任が認められることもあります。

この硬直性が、利用に踏み切れない大きな理由の一つとなっています。成年後見制度の利用を開始する前に、手続き開始のタイミングや準備について慎重に検討することが極めて重要です。

【特に注意】不動産売却における厳しい制限とは?

「親が施設に入所したので、空き家になった実家を売却して入所費用に充てたい」
成年後見制度の利用を検討するきっかけとして、このような不動産売却のニーズは非常に多く聞かれます。

しかし、まさにこの不動産売却こそが、制度の厳しい制限を受ける代表例なのです。

成年後見制度を利用している場合、たとえ後見人であっても、本人の不動産を自由に売却することはできません。

特に、ご本人が住んでいる、あるいは過去に住んでいた「居住用不動産」を売却するには、必ず家庭裁判所の許可が必要となります。

これは、相続した不動産の売却などとは全く異なる、特別な手続きだとご理解ください。

なぜ家庭裁判所の許可が必要なのか?

なぜ、これほどまでに手続きが厳格なのでしょうか。その理由は、制度の根幹にある「本人の保護」という理念にあります。

住まいは、人の生活基盤そのものです。その大切な基盤が、家族や後見人の都合で安易に失われることがないように、中立的な立場である家庭裁判所が「本当に売却が必要か」「売却することが本人にとって最善の選択か」を厳しくチェックするのです。

このセーフティネットがあるからこそ、本人の権利が守られるわけですが、一方で、家族にとっては手続きのハードルが高くなるという側面も持っています。

売却が認められない・困難になるケース

家庭裁判所は、売却の「必要性」や「合理性」を慎重に審査します。そのため、以下のようなケースでは許可が下りなかったり、手続きが難航したりすることがあります。

  • 売却の必要性が低いと判断されるケース:他に預貯金などの資産が十分あり、不動産を売却しなくても当面の生活費や介護費用が賄えると判断された場合。
  • 売却価格が不相当なケース:売却価格が市場の相場よりも著しく低く、本人に不利益をもたらすと判断された場合。
  • 売却後の生活設計が不透明なケース:不動産を売却した後の、本人の住まいや生活の見通しが立っていない場合。

単に「介護費用を捻出したい」「相続に備えて今のうちに整理したい」といった家族の希望だけでは、許可を得るのは簡単ではないという現実を理解しておく必要があります。

参考情報として、家庭裁判所のウェブサイトもご覧いただくと、より理解が深まるでしょう。
居住用不動産処分許可申立て(裁判所)

総額はいくら?費用の内訳と高額になるケース

制度を利用する上で、不動産の問題と並んで大きな関心事となるのが「費用」です。一体、総額でどれくらいの負担になるのでしょうか。

費用は大きく分けて「申立て時の初期費用」と「継続的にかかる後見人への報酬」の2つがあります。

詳細な費用感については、成年後見制度の費用相場に関する解説記事もご用意していますので、そちらもぜひご覧ください。

申立て時にかかる初期費用の内訳

まず、制度の利用を開始するために、家庭裁判所へ申立てを行う際、以下のような実費が必要になります。

項目 費用の目安 備考
申立手数料(収入印紙) 800円~ 後見・保佐・補助の種類による
登記手数料(収入印紙) 2,600円 法務局への登記用
郵便切手代 3,000円~5,000円程度 裁判所からの連絡用
診断書作成費用 5,000円~数万円程度 医療機関によって異なる
鑑定費用 10万円~20万円程度 裁判所が必要と判断した場合のみ
申立て初期費用の内訳と目安

特に注意が必要なのが「鑑定費用」です。

これは、本人の判断能力の程度をより詳しく調べるために、裁判所が医師に鑑定を依頼した場合に発生する費用で、10万円を超えることも珍しくありません。申立ての際には、こうした予期せぬ出費の可能性も考慮しておく必要があります。

申立てに必要な書類については、家庭裁判所への提出書類に関する記事で詳しく解説しています。

後見人への報酬相場と支払い続ける期間

制度利用中の最も大きな費用が、後見人への継続的な報酬です。親族が後見人になる場合は無報酬のケースもありますが、司法書士などの専門家が選任された場合は、本人の財産から報酬を支払うことになります。

東京家庭裁判所が公表している目安では、管理する財産額に応じて月額2万円~6万円とされています。例えば、月3万円の報酬を10年間支払い続けた場合、総額は「3万円 × 12ヶ月 × 10年 = 360万円」にもなります。

この支払いがご本人が亡くなるまで続くという、長期的な視点を持つことが非常に重要です。

費用が払えない場合の公的支援制度

「そんなに高額な費用は払えない…」と不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。ご安心ください。経済的に困難な状況にある方のために、公的な支援制度が用意されています。

例えば、申立て費用や専門家への報酬を自治体が助成してくれる制度や、法テラスの民事法律扶助制度を利用して費用を立て替えてもらう方法などがあります。

費用面で利用を諦める前に、まずはお住まいの市区町村の担当窓口や、地域包括支援センターに相談してみることをお勧めします。

【2026年法改正】「やめられない」問題は解決に向かうのか?

これまで述べてきたように、成年後見制度の最大のデメリットは「一度始めたら、原則やめられない」という硬直性にありました。しかし、この大きな問題点が、法改正によって変わろうとしています。

現在、成年後見制度の見直しが進められており、法制審議会で要綱(改正の方向性)が取りまとめられた段階です。今後、法案提出・成立・施行を経て制度が変わる可能性がありますが、時期や最終的な内容は確定していません。

この法改正は、制度をより利用しやすく、柔軟なものにすることを目指しており、私たち利用者にとって非常に重要な変更が含まれています。

改正のポイント:「終身制」から「必要な期間だけ」へ

今回の法改正で最も注目すべき点は、「終身制」の見直しです。これまでは、一度制度が始まると本人が亡くなるまで続くのが原則でした。ただし、見直しの議論(要綱)では、支援の必要性がなくなったと家庭裁判所が判断した場合に、途中で制度を終了できる仕組みが検討されています。

例えば、「実家の売却手続きのためだけに後見人が必要だった」というケースでは、売却が完了した時点で後見を終了させることが可能になるかもしれません。また、「遺産分割協議をまとめるため」といった一時的な目的が達成された場合も同様です。

これにより、必要な期間だけ制度を利用するという、より柔軟な選択肢が生まれることになります。

注意点:改正後も残る課題と実務上の影響

法改正によって制度が使いやすくなることは間違いありませんが、専門家として注意しておきたい点もあります。例えば、「支援の必要性がなくなった」という判断を家庭裁判所がどのような基準で行うのか、その具体的な運用はまだ不透明です。

また、一度制度を終了した後に、再び本人の状態が悪化した場合、再度申立ての手間と費用がかかるというリスクも考えられます。

法改正は大きな前進ですが、すべての問題が解決するわけではありません。

だからこそ、後述する任意後見や家族信託といった他の選択肢と組み合わせ、ご自身の状況に合わせた最適な「備え」を設計していくことが、今後ますます重要になるでしょう。

改正の動向については、法務省のウェブサイトで最新情報をご確認いただけます。
民法(成年後見等関係)等の改正 に関する要綱案 – 法務省

デメリットを回避するための代替案【徹底比較】

ここまで成年後見制度のデメリットを詳しく見てきましたが、「うちのケースには合わないかもしれない…」と感じた方もいらっしゃるでしょう。

ご安心ください。財産管理の方法は一つではありません。ここでは、成年後見制度のデメリットを回避できる3つの代表的な代替案を、それぞれの特徴とともに比較解説します。

どの制度が最適かはご家庭の状況によって異なりますので、認知症になる前の財産管理対策として、広い視野で検討することが大切です。

① 家族信託:柔軟な財産管理を実現したい場合に

家族信託は、本人が元気なうちに、信頼できる家族に財産の管理・処分を託す契約です。最大のメリットは、その柔軟性にあります。

成年後見制度では難しかった不動産の売却や資産の組み換えなども、あらかじめ定めた契約内容の範囲内で、家族の判断で機動的に行うことができます。また、専門家への継続的な報酬が発生しない点も大きな魅力です。

ただし、身上監護(介護施設の契約など)は行えない、契約設計に専門知識が必要で初期費用がかかるといった側面もあります。詳しくは、家族信託のメリット・デメリットを解説した記事をご覧ください。

② 任意後見制度:元気なうちに後見人を自分で決めておきたい場合に

任意後見制度は、本人が判断能力のあるうちに、将来自分の判断能力が低下した際に後見人になってもらう人を、自らの意思で選んでおく契約です

。法定後見と違い、「誰に」「何を」任せるかを自分で決められるのが最大のメリット。財産管理だけでなく、身上監護もお願いできます。

ただし、実際に効力が発生する際には家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任する必要があり、その監督人への報酬(月額1~2万円程度)が発生する点は理解しておく必要があります。契約にかかる費用については、任意後見契約の費用に関する記事で詳しく解説しています。

③ 財産管理契約:日常的な金銭管理のサポートが目的の場合に

財産管理契約は、まだ判断能力はしっかりしているものの、身体的な理由などで銀行に行くのが大変、といった方向けのライトなサポート契約です。日常的な預貯金の出し入れや公共料金の支払いなどを家族に委任します。

あくまで本人の手足となって動いてもらう契約であり、後見制度のように本人の代理で大きな契約を結んだり、財産を処分したりする権限はありません。

また、本人の判断能力が低下すると契約の有効性が問題になる可能性がある点には注意が必要です。

デメリットを理解した上で、成年後見制度が適するケースとは

これまで多くのデメリットや代替案について解説してきましたが、それでもなお、成年後見制度が最も適した選択肢となるケースも存在します。それは、成年後見制度が持つ「家庭裁判所の監督」や「強力な法的権限」が、本人の保護のために不可欠な状況です。

具体的には、以下のようなケースが考えられます。

  • 親族間で意見が対立している場合:財産管理の方針を巡って親族間の仲が険悪な場合、中立的な第三者である後見人が入ることで、公平な財産管理が実現できます。
  • 本人に多額の借金や浪費癖がある場合:後見人がお金の出入りを厳格に管理することで、本人の生活再建をサポートできます。
  • 悪質な訪問販売などの消費者被害が心配な場合:成年後見人が就くと、本人が不利な契約をしてしまっても後から取り消すことができる「取消権」が与えられ、本人を詐欺などから守ることができます。

このように、他の制度にはない強力な保護機能が必要な場合には、成年後見制度が最善の選択となるのです。どの制度を選ぶか迷われた際は、司法書士などの専門家への相談もご検討ください。

まとめ:利用前の最終チェックリスト

成年後見制度は、ご家族の財産と生活を守るための重要な制度ですが、同時に多くのデメリットも存在します。利用を開始してから「知らなかった」と後悔しないために、最後に以下の点をチェックしてみてください。

  • 制度が始まると原則やめられないことを理解していますか?
  • 専門家への報酬など、長期的な費用負担を試算しましたか?
  • 自宅などの不動産を売却する具体的な計画はありますか? その必要性を裁判所に説明できますか?
  • 家族信託や任意後見など、他の選択肢と比較検討しましたか?
  • 家族の希望(資産運用や相続対策)と、制度の目的(現状維持)にズレはありませんか?
  • 裁判所への報告など、家族が担うべき事務的な負担を理解していますか?

これらの問いに一つでも不安が残るようであれば、決して一人で悩まず、手続きを進める前に一度、私たち専門家にご相談ください。

ご家族の状況を丁寧にお伺いし、成年後見制度の利用が本当に最適なのか、それとも他の選択肢があるのかを一緒に考えさせていただきます。

当事務所では、成年後見制度に関する無料相談を実施しております。どうぞお気軽にお問い合わせください。

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