後見人の職務内容と権限|財産管理と身上監護の違いを解説

後見人の職務は「財産管理」と「身上監護」の2つ

ご家族の判断能力に不安を感じ、成年後見制度を考え始めたとき、多くの方が「後見人って、具体的に何をしてくれるの?」という疑問に突き当たります。

成年後見人の仕事は、ご本人の大切な財産と穏やかな生活を守るため、大きく分けて「財産管理」「身上面の支援(身上配慮)※実務では「身上監護」と呼ばれることもあります」という2つの重要な役割から成り立っています。

この2つの役割を正しく理解することが、制度利用の第一歩です。私たち司法書士は、家庭裁判所から後見人や、後見人を監督する「成年後見監督人」に選ばれることもあり、その経験から多くのご家族をサポートしてきました。

ここでは、それぞれの職務内容を具体的に解説していきますね。

なお、成年後見制度の利用を検討し始めた段階の方は、成年後見制度の利用を検討する際の準備|必要な情報と手続き開始のタイミングで全体像を解説していますので、併せてご覧ください。

財産管理とは|本人の資産を守り、適切に使うこと

「財産管理」とは、その名の通り、ご本人の預貯金や不動産といった資産全体を、ご本人に代わって適切に管理・維持することを指します。

目的は、ご本人の資産が不当に失われるのを防ぎ、生活や医療に必要な費用を安定的に支払えるようにすることです。

具体的には、以下のような業務を行います。

  • 預貯金通帳や印鑑、キャッシュカードなどを預かり、安全に保管する
  • 年金や給与、不動産収入などを受け取る
  • 毎月の生活費をご本人にお渡ししたり、口座から支払ったりする
  • 税金、社会保険料、公共料金、家賃などを期日通りに支払う
  • 不動産や有価証券などの資産状況を把握し、維持管理する
  • 保険金の請求や、各種行政手当の申請手続きを行う

これらの業務を通じて、ご本人が経済的に困窮することなく、安心して暮らせる基盤を整えるのが財産管理の役割です。

身上監護とは|生活と医療に関する法律行為を代行すること

もう一つの柱である「身上監護」は、ご本人が安心して生活を送り、適切な医療や介護を受けられるように、必要な契約手続きを代行する役割を担います。ここで非常に重要なポイントがあります。

身上監護は、食事の世話や入浴の介助、掃除といった直接的な介護行為(事実行為)ではありません。

後見人の役割は、あくまでご本人が適切なサービスを受けられるように「法律面で手配する」ことです。具体的には、以下のような業務が挙げられます。

  • 介護サービス事業者と面談し、介護サービス利用契約を結ぶ
  • 老人ホームなどの施設を探し、入退所に関する契約手続きを行う
  • 病院の入退院に際して、必要な手続きや契約を代行する
  • 要介護認定の申請や更新手続きを行う
  • ケアマネージャーや医師、施設担当者と連携し、ご本人の状況を把握する

このように、後見人は介護の専門家や医療機関とご本人との「橋渡し役」として、法律的な側面から生活環境を整えていくのです。

【一覧表】後見人ができること・できないことの境界線

後見人には大きな権限が与えられますが、それはあくまで「ご本人の利益を守るため」です。そのため、何でも自由にできるわけではなく、その権限には明確なルールと限界が設けられています。

特に、ご本人の財産や生活に大きな影響を与える行為については、家庭裁判所の厳しいチェックが入ります。

ここでは、後見人の権限を「後見人の判断でできること」「家庭裁判所の許可が必要なこと」「原則としてできないこと」の3つに分けて、一覧表で分かりやすく整理しました。

なぜ裁判所が関与するのか、それはご本人の大切な財産と生活を守るための「最後の砦」だからです。

この境界線を正しく理解することが、後見制度のデメリットやリスクを避ける上で非常に重要になります。詳細については、成年後見制度のよくあるデメリット|利用前に知っておくべきことの記事も参考にしてください。

成年後見人の権限の範囲を「できること」「裁判所の許可が必要なこと」「できないこと」の3つに分類したインフォグラフィック。
分類 具体的な行為の例 ポイント
後見人の判断でできること ・預貯金の管理、入出金・年金の受領・公共料金、税金、家賃の支払い・介護サービス契約の締結・変更・解約・病院の入退院手続き・日用品の購入 ご本人の日常生活を維持するための行為。後見人の責任において迅速な判断が求められます。
家庭裁判所の許可が必要なこと ・ご本人が住んでいる家や土地(居住用不動産)の売却、賃貸、担保設定・遺産分割協議・相続放棄(申述) ご本人の財産や生活基盤に重大な影響を及ぼす行為。後見人の独断では行えません。
原則としてできないこと ・ご本人に代わって結婚、離婚、養子縁組をすること・ご本人に代わって遺言をすること・手術や延命治療など医療行為への最終的な同意・(原則として想定されない)積極的な資産運用(例:FX、暗号資産などの高リスク取引) ご本人の意思そのものが尊重されるべき身分行為や、一身専属的な権利に関わる行為。
後見人の権限の範囲

後見人の判断でできること(日常的な財産管理・身上監護)

上記の表の通り、ご本人の生活を維持するために日常的に発生する行為の多くは、後見人の判断で行うことができます。例えば、毎月の年金を受け取り、そこから家賃や光熱費、食費などを支払うといった業務です。

また、ケアマネージャーと相談して必要な介護サービスを契約したり、体調を崩した際の入院手続きを行ったりすることも、後見人の重要な役割です。

これらの行為を円滑に進めるためには、後見人に選任された後、速やかに金融機関や役所に届出を行い、後見人として手続きができる体制を整えておくことが実務上のポイントとなります。

家庭裁判所の許可が必要なこと(本人の財産に大きな影響を与える行為)

「法定後見人 できないこと 裁判所許可」と検索される方が最も知りたいのがこの部分でしょう。

ご本人の財産や生活に特に大きな影響を与える特定の行為については、後見人の判断だけでは実行できず、事前に家庭裁判所の許可を得なければなりません。

その最も代表的なものが、ご本人が住んでいる家やその土地(居住用不動産)の処分です。例えば、「施設に入るための資金を作るために自宅を売りたい」と考えたとしても、後見人が勝手に売却することは絶対にできません。

なぜなら、住まいは生活の基盤そのものであり、それを失うことはご本人にとって回復困難な不利益となる可能性があるからです。

そのため、家庭裁判所は「本当に売却が必要か」「売却後の生活設計は万全か」「ご本人の意思はどうか」といった点を厳しく審査し、許可を出すか否かを慎重に判断します。この点については、国税庁の文書でもその手続きの重要性が示されています。

その他、遺産分割協議への参加や相続放棄なども、ご本人の財産状況を大きく変動させるため、家庭裁判所の監督下で行われます。もし、相続財産に不動産が含まれる場合は、相続不動産の売却に関する知識も必要となるでしょう。

原則としてできないこと(本人の一身専属的な権利)

後見制度は財産や生活を守るための制度であり、ご本人の人格や意思そのものを支配するものではありません。そのため、ご本人自身の意思決定によってのみ成立する行為(これを「一身専属的な権利」と呼びます)を、後見人が代行することは原則としてできません。

具体的には、以下のような行為が挙げられます。

  • 結婚、離婚、養子縁組、認知
  • 遺言書の作成
  • 臓器提供の意思表示

また、誤解されやすい点として「医療行為への同意」があります。後見人は、医師から治療方針の説明を受け、ご本人のこれまでの価値観や発言から意思を推定し、医療チームに伝えるという重要な役割を担いますが、最終的な手術や延命治療への同意権を持つわけではありません。

これは、人の生命や身体に関わる究極の自己決定権は、ご本人だけが持つべきものと考えられているためです。

親族後見人のための公私混同・完全回避マニュアル

ご家族が後見人(親族後見人)になるケースは少なくありません。しかし、身内だからこその距離の近さが、時として「公私混同」という大きな落とし穴に繋がることがあります。

「これくらいなら大丈夫だろう」という少しの甘えが、後に他の親族との深刻なトラブルや、家庭裁判所からの厳しい指摘に発展しかねません。

私自身、成年後見監督人として多くの事例を見てきましたが、トラブルの多くは悪意ではなく、知識不足や管理の甘さから生じています。

ここでは、そうした悲しい事態を未然に防ぐため、今日から実践できる具体的なルールを3つのステップでご紹介します。なお、財産額が大きい場合や親族関係が複雑な場合は、初めから専門職後見人の選任を検討することも一つの選択肢です。

ステップ1:本人用の口座と後見人自身の口座を完全に分離する

公私混同を避けるための絶対的な第一歩は、お金を物理的にきっちり分けることです。具体的には、以下のルールを徹底してください。

  • 後見人就任後、速やかにご本人名義の預貯金を一つの口座(主口座)に集約する。
  • その主口座から毎月決まった額を、生活費などを支払うための別の口座や財布に移して管理する。
  • 後見人自身の買い物や支払いの際に、ご本人のキャッシュカードや現金を絶対に使わない。一時的な立て替えもしないのが理想です。

「後で精算すればいい」という考えが、どんぶり勘定の始まりです。お金の流れをシンプルにし、物理的に混ぜない環境を作ることが最も重要です。

ステップ2:すべての入出金を記録し、領収書を保管する

家庭裁判所は、後見人に対して、裁判所の定める期限・頻度(多くは年1回)で、財産管理状況の報告を求めています。その際に、「何にいくら使ったのか」を客観的な証拠と共に示す必要があります。

これは、後見人の誠実さを証明するための重要な手続きです。

  • 簡単なノートやエクセルで良いので、ご本人の財産に関するすべての入出金を1円単位で記録する(家計簿をつけるイメージです)。
  • 買い物をした際のレシートや、公共料金の領収書、医療費の明細書など、支払いを証明する書類はすべて保管する。
  • 保管した領収書は、ノートに貼り付けたり、月ごとに封筒で分けたりするなど、後から確認しやすいように整理しておく。
親族後見人が、本人の財産を管理するために家計簿と領収書を整理している様子。

この記録と証拠の積み重ねが、裁判所への報告をスムーズにし、万が一他の親族から質問があった際にも、あなたの潔白を証明する強力な武器となります。

ステップ3:他の親族へ定期的に収支状況を報告する

法律上の義務ではありませんが、親族間のトラブルを避けるために絶大な効果を発揮するのが、自主的な情報開示です。お金の管理が見えない状況は、疑念や不満を生み出す温床となります。

  • 他の兄弟姉妹など、利害関係のある親族に対して、3ヶ月に1度など定期的に収支状況を共有する場を設ける。
  • ステップ2で作成した収支の記録を見せながら、「今月はこれだけの収入があり、これだけの支出がありました」と具体的に報告する。
  • 高額な支出が予定される場合は、事前に相談し、親族間の合意を形成しておく。

多くの事例を見てきた経験から断言できるのは、透明性の高いコミュニケーションが、親族間の信頼関係を維持する何よりの秘訣だということです。

面倒に感じるかもしれませんが、この一手間が将来の大きなトラブルを防ぎます。

【実践編】後見人就任後のタスクリストと実務のポイント

家庭裁判所から後見人に選任されると、審判書という決定書が届きます。しかし、いざ後見人としての生活が始まると、「まず、何から手をつければいいの?」と戸惑ってしまう方がほとんどです。

ここでは、後見業務をスムーズにスタートさせるための具体的な行動計画を、時系列のタスクリストとしてまとめました。

この記事を「実務の教科書」として活用し、一つずつ着実に進めていきましょう。申立て手続きの詳細については、法定後見制度の申立書類一式のページで解説しています。

就任後1ヶ月以内:財産の把握と各種届出

最初の1ヶ月は、後見業務の土台を築く最も重要な期間です。以下のタスクを漏れなく実行しましょう。

  1. 審判書の受け取りと内容確認:家庭裁判所から届いた審判書と、後日法務局から発行される「登記事項証明書」が、あなたが後見人であることの公的な証明書になります。
  2. 金融機関・役所への届出:銀行や証券会社、市区町村役場、年金事務所などに後見人に就任したことを届け出て、名義変更などの手続きを行います。
  3. 財産調査とリストアップ:預貯金通帳、不動産の権利証、保険証券、有価証券など、ご本人の全財産を把握し、リスト(財産目録)を作成します。これは裁判所への初回報告の基礎となります。
  4. 保険契約の確認:生命保険や損害保険の契約内容を確認し、受取人や保障内容を把握しておきます。

これらの初期手続きについては、裁判所が配布している手引きにも詳しく記載されています。
参照:早わかり 成年後見人

就任後3ヶ月以内:収支計画の策定と生活環境の整備

財産全体の状況が見えてきたら、次に行うのは計画的な管理体制の構築です。

  1. 年間収支予定表の作成:年金などの定期的な収入と、家賃、光熱費、医療費、施設費などの毎月の支出を洗い出し、年間の収支計画を立てます。これにより、将来的な資金ショートを防ぎます。
  2. 医療・介護状況の把握と連携:ご本人の健康状態や必要なケアについて、主治医やケアマネージャーと面談し、情報を共有します。今後の医療・介護方針について連携体制を築きましょう。
  3. 不要な契約の見直し:利用実態のないサブスクリプションサービスや、過大な保障内容の保険など、ご本人の生活に不要な契約がないかを確認し、必要に応じて解約を検討します。

日常業務:記録の継続と定期的な本人面会

初期設定が終わった後の日常業務で大切なのは、地道な記録の継続と、ご本人とのコミュニケーションです。

  1. 収支記録と領収書保管の徹底:「公私混同・完全回避マニュアル」で解説した通り、日々の入出金の記録と証拠書類の保管を継続します。これが年次報告を楽にする一番の近道です。
  2. 定期的なご本人との面会:後見人の仕事は事務手続きだけではありません。定期的にお会いして、健康状態や生活の様子を確認し、ご本人の希望や想いに耳を傾けることが、適切な身上監護の基本です。
  3. 関係者との情報交換:ケアマネージャーや施設担当者とは定期的に連絡を取り、ご本人の様子の変化などについて情報を共有し、連携を密に保ちます。

後見人の職務に関するよくある質問(Q&A)

ここでは、後見人の職務に関して、特に多く寄せられる質問にお答えします。私自身、成年後見監督人として後見人の方々から相談を受ける中で、皆さんが同じような点で悩まれていることを実感しています。専門家の視点から、分かりやすく解説します。

Q
後見人は本人の手術や延命治療に同意できますか?
A

結論から言うと、後見人には医療行為に関する最終的な同意権はありません。人の生命や身体に関する究極的な判断は、ご本人固有の権利(自己決定権)だからです。

ただし、後見人は何もしないわけではありません。

実務上は、医師から治療方針について詳しい説明を受け、ご本人の過去の発言や価値観、ライフプランなどを踏まえて「もし本人ならどう判断するか(意思の推定)」を医療チームに伝え、家族や親族と協議する、という非常に重要な役割を担います。法律論だけでなく、ご本人の想いを汲み取る橋渡し役となるのです。

Q
本人の財産から、家族の生活費を援助しても良いですか?
A

原則として認められません。

後見制度の大原則は「ご本人の財産は、ご本人の利益のためにのみ使う」という点にあります。たとえご本人の子どもや配偶者であっても、その生活費をご本人の財産から援助することは、基本的には横領とみなされる可能性があります。

ただし、ご本人が法律上の扶養義務を負っている相手(例:未成年の子や、収入のない配偶者)に対して、扶養の範囲内で生活費を支払うことは例外的に認められる場合があります。

しかし、その判断は非常に難しく、迷った場合は必ず事前に家庭裁判所や後見監督人に相談してください。安易な自己判断は絶対に禁物です。なお、後見人自身が受け取る報酬については、成年後見制度の費用相場で詳しく解説しています。

Q
後見人の仕事はいつまで続くのですか?途中で辞められますか?
A

後見人の仕事は、原則として「ご本人が亡くなるか、判断能力が回復するまで」続きます。

また、「大変だから」といった自己都合で自由に辞任することはできません。辞任するには、ご自身の病気や高齢、遠方への転居といった「正当な理由」がある場合に、家庭裁判所に申立てを行い、許可を得る必要があります。

後見人になるということは、ご本人の人生に長期的に寄り添うという重い責任を負うことでもあるのです。将来に備える任意後見制度との違いも理解しておくと良いでしょう。

まとめ|後見人の権限を正しく理解し、適切な支援を

今回は、成年後見人の職務内容と権限の範囲について、具体的な事例を交えながら解説しました。

後見人の役割は、「財産管理」「身上監護」の2本の柱でご本人の生活を支えることです。しかし、その権限は万能ではなく、特にご本人の財産や生活に大きな影響を与える行為には家庭裁判所の監督という明確な限界が設けられています。

特に親族が後見人になる場合は、身内だからこそ「公私混同」を徹底的に避け、お金の流れをガラス張りにすることが、ご本人を守り、家族の信頼関係を維持する上で何よりも重要です。

後見人の役割は、一人ですべてを抱え込むことではありません。家庭裁判所や私たちのような専門家と連携しながら、チームでご本人の利益を守っていく制度です。

もし後見人としての職務の進め方や、制度の利用について判断に迷うことがあれば、決して一人で悩まず、専門家にご相談ください。あなたの不安に寄り添い、最適な一歩を踏み出すお手伝いをさせていただきます。

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