法定後見の申立ては3ステップで全体像を把握しよう
ご親族の判断能力に変化が見られ、「法定後見制度」の利用を考え始めたとき、多くの方が「何から手をつけていいのか分からない」という大きな壁に直面します。複雑に見える手続きも、全体の流れを掴むことで、一歩ずつ着実に進めることができます。
法定後見の申立ては、大きく分けて以下の3つのステップで進みます。
- 書類の準備:家庭裁判所に提出する必要書類を収集・作成します。
- 家庭裁判所への提出:準備した書類一式を、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
- 審理・審判:裁判所が書類を審査し、面談などを行ったうえで、後見を開始するかどうかを決定します。
この記事では、この3ステップ、特に最初の関門である「書類の準備」に焦点を当て、必要な書類のチェックリストから書き方のコツ、手続き全体の流れまでを分かりやすく解説します。読み終える頃には、ご自身が次に何をすべきか、明確になっているはずです。
成年後見制度の利用を検討する際の全体像については、「成年後見制度の申立て準備(全体像)」でも体系的に解説していますので、併せてご覧ください。
【チェックリスト】法定後見の申立てに必要な書類一覧

法定後見の申立てで最も重要なのが、必要書類を漏れなく、そして正確に準備することです。ここでは、申立てに必要な書類をカテゴリー別に整理したチェックリストをご紹介します。ご自身の状況と照らし合わせながら、一つひとつ確認していきましょう。
ただし、提出書類は裁判所によって書式やルールが異なる場合があります。申立てを行う際は、必ず管轄の家庭裁判所のウェブサイトで最新の情報を確認してください。
①申立書など|家庭裁判所指定の書式
まず、家庭裁判所が定めた書式を準備します。これらは裁判所がご本人の状況を正確に把握するための基本情報となる書類です。通常、各家庭裁判所のウェブサイトからダウンロードできます。
- 申立書
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 財産目録
- 収支予定表
- 後見人等候補者事情説明書(候補者を立てる場合)
- 本人情報シート
これらの書類は、後見・保佐・補助といった申立ての種類によって書式が異なりますので、間違えないように注意しましょう。
②証明書類|本人・申立人・後見人候補者のもの
次にご本人や申立人、後見人の候補者に関する公的な証明書を準備します。主に市区町村役場や法務局で取得するものです。
- ご本人のもの
- 戸籍謄本(全部事項証明書)
- 住民票または戸籍附票
- 登記されていないことの証明書(法務局で取得)
- 申立人のもの
- 住民票
- 住民票
- 後見人等候補者のもの
- 住民票または戸籍附票
特に「登記されていないことの証明書」は、ご本人が既に他の後見制度を利用していないことを証明するための重要な書類です。最寄りの法務局(窓口)で請求できます。なお、郵送による請求・交付は東京法務局のみの取扱いです。
③財産・収支の資料|預貯金通帳のコピーなど
申立書に添付する「財産目録」や「収支予定表」に記載した内容が事実であることを証明するための裏付け資料です。これらは、適切な後見事務の計画を立てる上で不可欠となります。
- 預貯金通帳のコピー(表紙と直近の残高がわかるページ)
- 不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)
- 固定資産評価証明書または固定資産税・都市計画税納税通知書
- 生命保険証券のコピー
- 年金額がわかるもの(年金振込通知書など)
- ローン残高がわかるもの(返済予定表など)
- 未払いの請求書や督促状など
たくさんの資料が必要に思えるかもしれませんが、まずは手元にあるものを整理し、リストと照らし合わせて不足分を確認していくとスムーズです。こうした財産目録の作成は、後見手続きの根幹をなす重要な作業となります。
申立てにかかる費用については、収入印紙や郵便切手、診断書作成料などの実費が発生します。
(参考:裁判所|後見開始の申立書)
最重要書類「診断書」の準備と依頼のポイント
申立書類の中でも、ご本人の判断能力の状態を医学的に証明する「診断書」は、手続きの方向性を決める最も重要な書類の一つです。
この診断書は、どこの病院のものでも良いわけではありません。必ず家庭裁判所が指定する「成年後見制度用」の様式を使用する必要があります。普段からご本人を診察している主治医に作成を依頼するのが一般的です。
依頼する際は、ただ書類を渡すだけでなく、「なぜ後見制度が必要なのか」という背景を丁寧に説明することが大切です。ご本人の日常生活での困りごと(例:金銭管理が難しい、必要な契約が自分でできない等)を具体的に伝えることで、医師もより実態に即した診断書を書きやすくなります。
診断書の作成費用は医療機関によって異なりますが、数千円から1万円程度が目安です。もし主治医に作成を断られたり、かかりつけ医がいなかったりする場合には、地域包括支援センターなどに相談してみるのも一つの方法です。
診断書の準備は、成年後見制度の申立て準備の中でも特に丁寧に進めるべきステップと言えるでしょう。
(参考:最高裁判所事務総局家庭局|成年後見制度における診断書作成の手引)
申立書類の書き方|3つの重要書類でつまずかないコツ
書類を集めた後、多くの方が「どう書けばいいのか」という点でつまずきます。特に「申立事情説明書」「財産目録」「収支予定表」は、裁判所が状況を理解する上で非常に重要です。ここでは、実務の経験から見えてきた、これらの書類を作成する際のコツをお伝えします。
私がこれまでの業務で数多くの申立書類を見てきた中で感じるのは、裁判所が知りたいのは「なぜ、この方にはサポートが必要なのか」という具体的なストーリーだということです。
単に書類の空欄を埋めるのではなく、ご本人の生活や人柄が伝わるような、血の通った書類を作成することが、スムーズな審理につながる一番の近道なのです。
申立事情説明書:本人の困りごとを具体的に伝える
申立事情説明書は、ご本人が日常生活でどのようなことに困っているのかを裁判所に伝えるための、いわば「プレゼンテーション資料」です。
ここで大切なのは、抽象的な表現を避けること。
「金銭管理ができない」と書くだけでなく、「スーパーで支払う際、財布からお札を何度も出し入れしてしまい、結局店員さんに手伝ってもらうことが週に2、3回ある」「公共料金の支払いを忘れ、先月も督促状が届いた」というように、具体的なエピソードを盛り込みましょう。
「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どうした」を意識して書くことで、ご本人の状況がリアルに伝わり、なぜ後見人が必要なのか、その必要性が明確になります。
財産目録・収支予定表:正確な資産状況を報告する
財産目録と収支予定表は、今後の財産管理の基礎となる重要な書類です。正確性が何よりも求められます。
作成する上でのポイントは2つあります。
- 基準日を統一する:預貯金の残高などを記載する際は、「令和〇年〇月〇日現在」のように、調査した基準日を全ての資産で統一しましょう。これにより、情報に一貫性が生まれます。
- 裏付け資料と一致させる:財産目録に記載した金額は、添付する通帳のコピーや残高証明書の金額と必ず一致させてください。不動産についても、登記事項証明書の内容を正確に転記することが重要です。
また、住宅ローンや借金といったマイナスの財産(負債)も正直に記載する必要があります。ご本人の財産全体を正確に把握することが、適切な後見の第一歩です。
申立てから後見開始までの手続きの流れと期間

書類一式を家庭裁判所に提出した後、手続きはどのように進むのでしょうか。申立てから後見が開始されるまでの大まかな流れと期間の目安を知っておくことで、見通しを持って落ち着いて対応できます。
管轄の家庭裁判所に書類を提出します。
裁判所が提出された書類の内容を精査します。
家庭裁判所の調査官が、申立人や後見人候補者、場合によってはご本人とも面談し、詳しい事情を聞き取ります。
診断書だけでは判断が難しい場合に、裁判所が指定した医師による精神鑑定が行われます。
裁判所が調査結果を総合的に判断し、後見を開始するかどうか、誰を後見人にするかを決定します。
審判内容が告知され、審判書が届いてから2週間以内に不服申立てがされなければ確定します。その後、法務局で後見内容が登記され、正式に後見が開始されます。
申立てから審判が確定するまでの期間は、事案の複雑さや裁判所の混雑状況にもよりますが、おおむね数週間から数ヶ月程度かかるのが一般的です。特に、親族間で意見の対立がある場合や、鑑定が必要になった場合は、期間が長くなる傾向があります。
より具体的な手続きの流れについては、「尼崎市周辺の成年後見申立て手続き」でも解説していますので、ご参照ください。
法定後見の申立て、自分でできる?専門家に頼むべき?
ここまで読んで、「思ったより大変そうだ」「自分一人でできるだろうか」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。法定後見の申立ては、ご自身で行うことも、専門家に依頼することも可能です。どちらを選ぶべきか、それぞれのメリット・デメリットを整理してみましょう。
- メリット:専門家への報酬がかからないため、費用を抑えられる。
- デメリット:多くの時間と手間がかかる。書類の不備で何度も裁判所とやり取りが必要になる可能性がある。
- メリット:複雑な書類作成を任せられ、時間的・精神的な負担が大幅に軽減される。手続きがスムーズに進みやすい。
- デメリット:専門家への報酬が必要になる。
どちらが良いという正解はありません。しかし、以下のようなケースでは、専門家への相談を検討する価値が高いと言えるでしょう。
- 仕事や介護で忙しく、書類作成や役所まわりの時間が取れない
- 不動産や株式など、財産の種類が多くて複雑
- 親族間で意見がまとまっていない、または反対している人がいる
状況によっては、家庭裁判所の判断で専門職後見人が選任されることもあります。まずは一度、専門家の話を聞いてみてから、ご自身で進めるか、依頼するかを判断するのも一つの方法です。
法定後見の申立てに関するよくある質問(FAQ)
申立てにかかる収入印紙や郵便切手、診断書作成料などの費用は、原則として申立人が一時的に立て替えますが、家庭裁判所の判断等により、本人の負担(本人の財産からの精算)が認められる場合があります。
全員の同意書が必須というわけではありません。しかし、家庭裁判所は申立てがあったことを主要な親族に通知し、意見を照会します。事前に親族間でよく話し合い、理解を得ておくことが、手続きを円滑に進める上で非常に重要です。
ご本人の住民票がある住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てるのが原則です。
いいえ、必須ではありません。候補者を立てずに申し立てることも可能です。その場合、家庭裁判所が弁護士や司法書士などの専門家から適切な後見人を選任します。
法定後見制度を利用する際には、知っておくべきデメリットも存在します。メリットとデメリットを正しく理解した上で、手続きを進めることが大切です。
まとめ|書類準備は法定後見の第一歩です
法定後見の申立ては、多くの書類が必要となり、大変に感じられるかもしれません。しかし、一つひとつの書類は、ご本人の大切な財産と穏やかな生活を守るために不可欠なものです。
この記事でご紹介したチェックリストと手続きの流れを参考にすれば、ご自身が今どの段階にいて、次に何をすべきかが見えてくるはずです。書類の準備は、ご本人を支えるための、重要で確実な第一歩なのです。
手続きを進める中で、もし書類の書き方に迷ったり、ご自身のケースではどうすれば良いか分からなくなったりした際には、決して一人で抱え込まないでください。
私たち専門家は、そのような不安に寄り添い、手続きがゴールにたどり着くまでサポートするためにいます。後見が開始された後の後見人の職務内容についても、いつでもご相談いただけます。