連絡が取れない相続人、それでも遺産相続は進められます
「相続人の一人とまったく連絡が取れない…」
「遺産分割協議をしたいのに、話が進まずに困っている」
大切なご家族が亡くなられた悲しみの中、相続手続きを進めようとしても、特定の相続人と連絡がつかないことで、すべての手続きが止まってしまい、途方に暮れていらっしゃるのではないでしょうか。時間が経つにつれて、焦りや不安ばかりが募っていくお気持ち、お察しいたします。
そのような八方ふさがりの状況でも、法的な手続きを検討することで、遺産相続を前に進められる可能性があります。
大原則として、遺産分割協議は相続人全員の参加が不可欠です。だからこそ、連絡が取れない相続人が一人でもいるという状況は、法的にとても深刻な問題なのです。しかし、諦める必要はありません。
この記事では、司法書士という専門家の立場から、連絡が取れない相続人がいる場合の具体的な解決策を、順を追って分かりやすく解説していきます。
「不在者財産管理人」の選任や「遺産分割調停」といった、少し難しく聞こえるかもしれませんが、状況を打開するための有力な選択肢です。読み終える頃には、あなたが次に何をすべきか、その道筋がはっきりと見えているはずです。
大原則:連絡が取れない相続人を無視して遺産分割はできない
まず、最も重要な大原則からお伝えします。それは、連絡が取れない相続人を無視して、残りの相続人だけで遺産分割協議を進めることは絶対にできない、ということです。
たとえ他の相続人全員が合意して「遺産分割協議書」を作成したとしても、連絡が取れない相続人の合意(署名・押印等)が確認できない限り、遺産分割協議は成立しません。
なお実務上は、相続登記や預貯金の払戻し等の手続きで、相続人全員の署名・実印・印鑑証明書が揃った遺産分割協議書の提出を求められるのが一般的です。
この原則を知らずに進めてしまうと、時間と労力が無駄になるだけでなく、後々さらに大きなトラブルに発展する可能性もあります。
このテーマの全体像については、遺言書がない場合の相続登記手続きで体系的に解説しています。
無効な遺産分割協議書では金融機関も法務局も動かない
「一人くらいなら、いなくても大丈夫だろう」という考えは、残念ながら通用しません。なぜなら、相続手続きの現場では、書類が厳格にチェックされるからです。
例えば、故人の預貯金を解約するために銀行へ行くと、窓口では必ず「相続人全員の署名・実印・印鑑証明書が揃った遺産分割協議書」を求められます。一人でも欠けていれば、手続きはその場でストップし、お金を引き出すことはできません。
不動産の名義変更(相続登記)も同様です。法務局に申請する際、相続人全員の合意を証明できなければ、登記官は申請を受け付けてくれません。つまり、連絡が取れない相続人を外して手続きを進めようとしても、実務上、あらゆる場面で行き詰まってしまうのです。
手続きを放置した場合に起こる3つの深刻なリスク
「連絡が取れないなら、仕方ない」と、相続手続きそのものを放置してしまうと、さらに深刻な事態を招く恐れがあります。具体的には、主に3つのリスクが考えられます。
- 預貯金が凍結され、生活費や葬儀費用が引き出せない
銀行口座は名義人が亡くなると凍結されます。遺産分割が終わらなければ、故人の預貯金は誰も引き出せません。葬儀費用や未払いの医療費、残された家族の当面の生活費などを支払えず、経済的に困窮してしまうケースも少なくありません。 - 空き家になった実家が管理不全となり、損害賠償リスクを負う
相続財産に不動産が含まれる場合、放置すれば管理が行き届かなくなり、老朽化が進みます。万が一、空き家が原因で隣家に損害を与えたり、第三者が怪我をしたりすれば、相続人全員が損害賠償責任を負うことになりかねません。 - 相続関係がさらに複雑化する(数次相続)
手続きを放置している間に、他の相続人が亡くなってしまうと、その人の相続人が新たに加わり、権利関係がネズミ算式に複雑化していきます。このような数次相続が発生すると、話し合うべき相手が増え、解決はさらに困難になります。
問題を先延ばしにしても、良いことは一つもありません。今、勇気を出して一歩を踏み出すことが何よりも大切です。
【状況別】連絡が取れない相続人がいる場合の解決ステップ
では、具体的にどうすればよいのでしょうか。ここからは、あなたの状況に合わせた解決策をステップ・バイ・ステップで解説します。状況は大きく2つのケースに分けられます。
- ケースA:本当に「行方不明」で、どこにいるか分からない場合
- ケースB:居場所は分かるが、意図的に「連絡を拒否・無視」される場合
どちらのケースであっても、まず最初に行うべきことは共通しています。
ステップ1:まずは相続人の現在の住所を徹底的に調査する
あらゆる法的手続きの出発点は、相手方の「現在の住所」を正確に把握することです。思い込みで進めるのではなく、公的な書類に基づいて徹底的に調査する必要があります。
私たち司法書士が実務で行う調査は、単に戸籍をたどるだけではありません。
遺産分割やその後の裁判所手続きに進む前提として、「合理的な所在調査」を尽くしたという証拠を残すことが非常に重要になります。なぜなら、裁判所へ手続きを申し立てる際に、どれだけ調査を尽くしたかを説明する必要があるからです。
具体的な調査の流れは以下の通りです。
- 戸籍謄本をたどる:まず、連絡が取れない相続人の本籍地を調べ、最新の戸籍謄本を取得します。
- 戸籍の附票を取得する:これが最も重要な書類です。「戸籍の附票(こせきのふひょう)」には、その戸籍が作られてから現在までの住所の履歴が記録されています。戸籍謄本で判明した本籍地の市区町村役場で取得します。これにより、現在の住民票上の住所が判明することが多いです。

この相続人調査は、ご自身で行うことも可能ですが、戸籍の読み解きには専門的な知識が必要です。司法書士にご依頼いただければ、これらの必要書類の収集を代行し、正確な住所を迅速に調査することが可能です。

ステップ2-A(行方不明の場合):不在者財産管理人を選任する
ステップ1の調査を尽くしても住所が判明せず、本当に行方不明である場合。このケースで最も有効な解決策が、家庭裁判所に「不在者財産管理人(ふざいしゃざいさんかんりにん)」を選任してもらう手続きです。
不在者財産管理人とは、行方不明の相続人(不在者)に代わってその人の財産を管理し、必要な手続きを行うために家庭裁判所が選任する者(親族等が選任される場合もあれば、弁護士や司法書士などの専門職が選任される場合もあります)です。
不在者財産管理人が選任されれば、家庭裁判所の「権限外行為許可」を得た上で、行方不明の相続人の代理人として遺産分割に関与し、遺産分割協議書への署名・押印等を行うことが可能になります。これにより、止まっていた遺産分割を適法に進めることが可能になるのです。

ステップ2-B(連絡拒否の場合):遺産分割調停を申し立てる
ステップ1の調査で住所は判明したものの、手紙を送っても返事がなく、電話にも出ないなど、意図的に連絡を無視・拒否されている場合。この場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てるのが有効な手段です。
もちろん、いきなり法的手続きを取るのではなく、まずは手紙などで「遺産分割を進めたいので、ご協力をお願いします」と誠実に伝えることが大切です。しかし、それでも相手が応じない場合は、調停という公的な話し合いの場を設けるしかありません。
調停を申し立てると、裁判所から相手方へ正式な呼出状が送られます。個人的な連絡は無視できても、裁判所からの呼び出しを無視し続ける人は多くありません。
調停では、調停委員という中立な第三者が間に入って話し合いを進めてくれるため、感情的な対立を避け、冷静に解決策を探ることができます。
もし調停でも話がまとまらなければ、「審判」という手続きに移行します。審判では、裁判官が一切の事情を考慮して、遺産の分け方を法的に決定してくれます。
つまり、遺産分割協議がこじれても、調停や審判といった手続きにより、解決を図るための道筋が用意されています。
【司法書士が解説】不在者財産管理人選任申立ての具体的な流れと費用
ここからは、この記事の核心部分である「不在者財産管理人選任申立て」について、私たち司法書士が実務でどのように進めているのか、その具体的な流れと費用を詳しく解説します。
この手続きは、行方不明の相続人がいる場合の切り札とも言える重要な制度です。
申立てに必要な書類と「不在の事実を証する資料」の集め方
家庭裁判所に申立てを行うには、申立書のほか、多くの添付書類が必要です。主なものは以下の通りです。
- 申立書
- 不在者の戸籍謄本、戸籍の附票
- 申立人の戸籍謄本
- 不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金通帳の写しなど)
- 不在の事実を証する資料
この中で特に重要なのが、「不在の事実を証する資料」です。これは、単に「連絡が取れません」と主張するだけでなく、「これだけ調査を尽くしても、やはり行方が分かりませんでした」ということを客観的に証明するための資料です。
私たちが実務で準備する資料には、例えば以下のようなものがあります。
- 宛先人不明で返送された手紙(開封せず、封筒ごと保管します)
- 電話をかけたが繋がらなかった記録(かけた日時、回数などをメモしておきます)
- 親族や知人への聞き取り調査のメモ(誰に、いつ、何を聞いたかを記録します)
- 不在者の従前の住居の賃貸借契約書の写しや、警察への捜索願の受理証明書など
これらの地道な証拠集めが、裁判所に申立てを認めてもらうための重要な鍵となります。
申立てから選任、遺産分割協議参加までの期間と実務
申立てから不在者財産管理人が選任されるまでの期間は、事案にもよりますが、おおむね数ヶ月程度かかるのが一般的です。そして、ここで非常に重要なポイントがあります。それは、管理人が選任されても、すぐに遺産分割協議ができるわけではないということです。
不在者財産管理人の職務は、原則として財産を維持・管理する「保存行為」などに限られています。遺産分割協議のように、不在者の財産そのものを動かす(処分する)行為は「処分行為」にあたるため、私たちは管理人が選任された後、別途家庭裁判所に「権限外行為許可」を申し立てる必要があります。
この際、不在者の法定相続分をきちんと確保した合理的な遺産分割協議書の案を裁判所に提出し、「この分割内容は不在者にとって不利益なものではありません」と説明することが、許可を得るための重要なポイントとなります。
この許可があって初めて、管理人は正式に遺産分割協議書に調印できるのです。この一連の流れをスムーズに進めるには、専門的な知識と経験が不可欠です。
予納金や専門家報酬など、かかる費用の目安
費用について心配される方も多いでしょう。不在者財産管理人選任申立てには、主に以下の費用がかかります。
- 申立ての実費:収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手代
- 予納金(よのうきん):専門家の報酬や経費に充てるために、あらかじめ裁判所に納めるお金です。事案の複雑さや財産の額、裁判所の運用によって異なりますが、数十万円〜100万円程度など、幅があるのが一般的です。
- 専門家への報酬:選任された専門家(弁護士や司法書士)への報酬です。
これらの費用は、原則として行方不明である不在者本人の財産から支払われます。しかし、不在者に十分な財産がない場合は、申立人が立て替える必要が出てくることもありますので、ある程度の資金準備は見込んでおくとよいでしょう。
「連絡が取れない相続人」に関するよくある誤解と質問
最後に、この問題に関して多くの方が抱きがちな疑問や誤解について、Q&A形式でお答えします。
できません。
これは非常によくあるご質問ですが、結論から言うと、他の相続人が本人に代わって相続放棄の手続きをすることは不可能です。
相続放棄は、「私は一切の財産も負債も相続しません」という非常に重要な意思表示です。そのため、必ず本人の明確な意思に基づいて、本人が家庭裁判所に申し立てる必要があります。他の相続人が「面倒だから」「借金があるかもしれないから」といった理由で、勝手に手続きを進めることは法的に一切認められていません。
遺産分割が目的なら、まずは不在者財産管理人制度を検討しましょう。

「失踪宣告」とは、7年以上もの間、生死が全く不明な人について、法律上「死亡したもの」とみなす制度です。
確かにこの制度を使えば、その相続人は死亡したものとして扱われるため、残りの相続人で遺産分割を進めることができます。
しかし、失踪宣告は要件が厳しく、手続きにも1年近くかかることがあります。また、万が一後から本人が生きて帰ってきた場合、話が非常に複雑になります。遺産分割を進めるという目的のためには、まずは不在者財産管理人制度を利用する方が、現実的で安全な選択肢と言えるでしょう。
相続人調査から不動産の名義変更まで、ワンストップでサポートできます。
私たち司法書士にご依頼いただければ、以下のような幅広い業務に対応することが可能です。
- 連絡が取れない相続人の戸籍収集・住所調査
- 家庭裁判所に提出する不在者財産管理人選任申立書の作成
- 相続人全員の合意内容をまとめた遺産分割協議書の作成
- 遺産分割協議後の不動産の名義変更(相続登記)
このように、相続手続きの入り口から出口まで、一貫してサポートできるのが司法書士の強みです。ただし、遺産分割調停の場で代理人として相手方と交渉するような行為は、弁護士の業務領域となります。私たちは、必要に応じて信頼できる弁護士と連携して対応することも可能です。
より具体的なサポート内容については、相続手続きの代行(遺産整理業務)の費用と流れで詳しくご案内しています。
まとめ:一人で悩まず、まずは専門家にご相談ください
この記事では、連絡が取れない相続人がいる場合の対処法について、具体的なステップを解説してきました。
相続人と連絡が取れず、手続きが止まってしまうと、本当に心細く、不安な気持ちになることと思います。しかし、ここまでお読みいただいたあなたなら、もうお分かりのはずです。たとえ困難な状況であっても、法的な手続きを踏むことで、解決に向けた道筋が見えてくることがあります。
まずは正確な住所調査を行い、その結果に応じて、
- 行方不明なら「不在者財産管理人選任の申立て」
- 連絡拒否なら「遺産分割調停の申立て」
という流れで進めていくのが王道です。
とはいえ、これらの手続きをご自身で進めるのは、時間的にも精神的にも大きな負担がかかります。書類の作成や裁判所とのやり取りには、専門的な知識も必要です。そんな時こそ、私たち司法書士を頼ってください。
一人で抱え込まず、専門家に相談することが、問題解決に向けて安全に手続きを進めるための第一歩になります。
当事務所では、初回のご相談は無料で承っております。あなたの状況を丁寧にお伺いし、最適な解決策をご提案いたします。どうぞお気軽にお問い合わせください。